お客様の品格

一昔前に「お客様は神様です」と言った演歌歌手がいました。
私が20歳代に語学留学したホームステイ先のカナダ人は「Customer is always right.」(お客様は常に正しい)と言っていました。

「商売やビジネスはお客様のためにある」という事実は間違いないと思います。
しかし、「医療はビジネスとは違う!」という声も医療者の中ではよく発せられます。
医療とビジネスの違いの最もよく言われることが、「ビジネスの目的は利益の追求でいいが、医療の目的は利益の追求であってはいけない」という意見です。
ビジネスも医療経営も赤字が続けば倒産することは同じなのですが、医療においては利益よりも弱者である患者さまの幸せを優先するべきだ、ということだと思います。

物事は白か黒かで判断できないことがたくさんあります。
毎月赤字で倒産しそうな病院に「ビジネスの目的は利益の追求でいいが、医療の目的は利益の追求であってはいけない」とアドバイスすることは何の意味のない事のように思います。
「患者さまは弱者である」ということも、大半の患者様には当てはまっていても、モンスターペイシャントと言われる、一部の自分勝手な患者様には当てはまらないと思います。

「お客様は神様です」とか「Customer is always right.」(お客様は常に正しい)は、ほとんどの良識のある患者様には当てはまっている法則だと思います。
しかし、この法則をすべての患者さまに適応することは間違いではないかと思います。
特に医療において一番大切なことは「信頼関係」だと思います。
信頼関係が築けていない患者様との治療は必ずトラブルにつながります。

以前、ある居酒屋で、「おい、生ビール」で1000円、「生一つ持ってきて」で500円、「すみません。生一つください」で380円というように、注文する際に述べた言葉によって料金が変わると店内に張り紙を出したお店が話題になりました。
料金の下には「お客様は神様ではありません」「当店のスタッフはお客様の奴隷ではありません」との記述もあったそうです。
こんな張り紙をしなくてはいけないほど、スタッフを「奴隷」のように扱うお客様がいたのだと思います。
このお店の方針としても、お客様を「神様」のように扱いたいけど、一部の勘違いしたお客さんのせいで、こんな張り紙までしてスタッフを守ろうとしたのだと思います。

一昔前のように、求人すれば人はいくらでも雇える時代であれば、経営者もスタッフよりもお客様を優先したような対応になったのかもしれませんが、今のように少子化で求人難の時代において「スタッフとお客様のどちらが大事なんだ!?」と問い詰められれば、殆どの経営者は口に出すかどうかは別にしても、心の中では「スタッフの方が大事だ!」と思っているのではないでしょうか?

ドラマの中で「仕事と家族とどちらが大切なの!?」と問い詰められる場面がありますが、会社が倒産しそうだったり、自分がリストラされそうであれば、「仕事!!」と答えるべきでしょうし、家族が病気や大きな問題にぶちあたっているときは「家族!!」と答えるべきでしょう。
どちらもバランスがとれている際は、「どちらも大事!!」が正解ではないでしょうか?

良識ある患者さまに対しては、「お客様は神様です」「Customer is always right.」は正しいと思いますが、良識のない患者様に対しては「お客様は神様ではありません」「当店のスタッフはお客様の奴隷ではありません」と毅然とした態度で社員を守っていかないといけない時代のような気がします。
99%以上の患者さまは良識のある方ですが、1%未満のモンスターペイシャントに対しては毅然とした態度で接することが大切な時代のような気がします。

「経営者とスタッフ」や「お店とお客様」とで、どちらが上でどちらが下ということはないと思います。
「お金を払っている立場が上で、お金をもらっている立場が下」という時代はなくなろうとしています。どちらも対等な関係だと思います。
親子であっても、上下でなく対等が求められる時代になってきています。

何をもって良識と考えるかはとても難しい問題です。
自分にとっての良識が、お客様やスタッフにとっては良識でない事も多々あります。
自分の考えを押し付けるのではなく、広く一般的な良識で患者様やスタッフを幸せにしていくためには、お互いにとって「何が正しいのか?」「何がフェアーなのか?」と常に自分に問い続けていくしかないのかと思います。

 

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